3-5 分子集団研究系
物性化学研究部門
薬 師 久 彌(教授) (1988 年 5 月 16 日着任)
A -1)専門領域:物性化学
A -2)研究課題:
a) 分子導体における電荷秩序相の研究 b) 電荷移動を伴う相転移の研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 電荷の局在化に起因する金属・絶縁体転移では,クーロン反発エネルギーを最小にするために,電荷分布に濃淡が発 生する。この濃淡は通常格子の変形と結合しており,ある特定の方向に電荷が配列する電荷秩序状態をとる。この現 象は分子導体の伝導電子が遍歴性と局在性の境界領域に位置しているためであり,多くの分子導体で普遍的に起こ る現象である。我々はこのような物質を振動分光法を用いて系統的に研究しているが,本年度は以下のような結果 を得た。
(i)B E D T -T T F 赤外活性モード:B E D T -T T F 分子には三つの C =C 伸縮振動モードがあるが,二つはラマン活性で一つは赤 外活性である。いずれのモードの振動数も分子上の電荷(価数)に敏感であるが,振電相互作用の影響を受けない赤外活 性モードは伝導面に垂直な偏光で測定できる大きな結晶が得られれば電荷分布を知るのに理想的なプローブとなる。この 赤外活性モードの電荷と振動数シフトの関係を系統的に調べて,振動数より電荷を見積もるための経験式を得ることができ た。
(ii)θ-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4:この物質は低温まで金属を保持するθ-(BEDT-TTF)2I3と電荷秩序相転移を起こす典型的 な物質であるθ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4との中間のバンド幅をもつ物質である。この物質は低温で非線形伝導が報告さ れ,電荷秩序相が成長していることが予想されているが,赤外・ラマン分光法では大きな振幅の電荷秩序相を見出すことは できなかった。この結果はNMRと一致しており,振幅の小さな電荷密度波が非線形伝導に寄与していると推測される。また, 格子歪が発達していることも反射分光法により明らかにすることができた。
(iii)β”-(BEDT-TTF)4([(H3O)M(C2O4)3]Y (M = Ga, Y = C6H5NO2; M = Cr, Y = C6H5NO2; M = Fe, Y = C6H5CN):低温で抵 抗を増加させながら常圧で超伝導転移を示すこれらの物質は金属相と絶縁相の混在する不均一な電子相で構成されてい る。この絶縁相が電荷秩序相である可能性をラマン分光法により明らかにした。ただし,典型的な電荷秩序相に比べて密度 波の振幅が小さいので,今後まだ検討の余地を残している。
(iv)(DI-DC NQI)2A g の電子状態:(DI-T C NQI)2A gはウィグナー型の電荷整列状態が提唱された最初の物質である。この物 質の伝導鎖に垂直な偏光方向で赤外活性モードを観測し,複雑に分裂した C = C および C = N 伸縮振動の帰属を行って, NMRと同様な電荷の不均化(0.25:0.75)がある事が分かった。また,バイブロニックバンドの赤外・ラマン交互禁制則より,
2kFCDW+4kFBOW模型を提唱した。この模型は NMR の予言する4kFCDW模型と異なっており,両者を包含する考えが必
要である。
b)イオン結晶であるビフェロセン-(F1T C NQ)3はイオンの価数を変化させる相転移を起こす。この物質の相転移が広い 温度範囲で連続的に発現してることに興味を持ち,研究を開始した。従来,ビフェロセンの鉄の価数が変化している ことが観測されていたが,F1T C NQの価数が変化していることを赤外ラマン分光法で明らかにした。また,幅広い相 転移の温度領域では高温相と低温相の分域が共存し,この分域の大きさが巨視的な大きさであることを明らかにし た。
B -1) 学術論文
K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI, M. MENEGHETTI and C. PECILE, “Bond and Charge Density Waves in the Charge Localized Phase of (DI-DCNQI)2Ag Studied by Single-Crystal Infrared and Raman Spectra,” Phys. Rev. B 71, 045118 (10 pages) (2005).
M. MAKSIMUK, K. YAKUSHI, H. TANIGUCHI, K. KANODA and A. KAWAMOTO, “Influence of the Cooling Rate on Low-Temperature Raman and Infrared-Reflection Spectra of Partially Deuterated κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2] Br,” Synth. Met. 149, 13–18 (2005).
R. SWIETLIK, K. YAKUSHI, K. YAMAMOTO, T. KAWAMOTO and T. MORI, “Infrared and Raman Studies of the Phase Transition in the Organic Conductor (TTM-TTP)I3,” Synth. Met. 150, 83–92 (2005).
T YAMAMOTO, M. URUICHI, K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI, A. KAWAMOTO and H. TANIGUCHI, “Examination of the Charge Sensitive Vibrational Modes in ET Molecule,” J. Phys. Chem. B 109, 15226–15235 (2005).
A. F. BANGURA, A. I. COLDEA, J. SINGLETON, A. ARDAVAN, A. AKUTSU-SATO, H. AKUTSU, S. S. TURNER, P. DAY, T. YAMAMOTO and K. YAKUSHI, “The Robust Superconducting State in the Low-Quasiparticle-Density Organic Metals β”-(BEDT-TTF)4[(H3O)M(C2O4)3]Y; Superconductivity due to Proximity to a Charge-Ordered State,” Phys. Rev. B 72, 014543 (13 pages) (2005).
K. SUZUKI, K. YAMAMOTO, K. YAKUSHI and A. KAWAMOTO, “Infrared and Raman Studies of θ-(BEDT- TTF)2CsZn(SCN)4: Comparison with the Rapidly Cooled State of θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4,” J. Phys. Soc. Jpn. 74, 2631– 2639 (2005).
B -2) 国際会議のプロシーディングス
M. INOKUCHI, A. NAGAOKA, I. SHIROTANI, H. KAWAMURA, K. YAKUSHI and H. INOKUCHI, “Optical studies of shear stress on thin films,” Synth. Met. 152, 421–424 (2005).
B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本化学会関東支部幹事 (1984-1985).
日本化学会東海支部常任幹事 (1993-1994, 1997-1998). 日本化学会職域代表 (1995- ).
日本分光学会東海支部支部長 (1999-2000).
学会の組織委員
第3,4,5,6,7,8回日中合同シンポジウム組織委員(第5回,7回は日本側代表,6回,8回は組織委員長)(1989, 1992, 1995, 1998, 2001, 2004).
第 5,6,7回日韓共同シンポジウム組織委員(第 6回,7 回は日本側代表)(1993, 1995, 1997). 学会誌編集委員
日本化学会欧文誌編集委員 (1985-1986). 文部科学省、学術振興会等の役員等
日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員 (2000-2001). 科学研究費委員会専門委員 (2002-2005).
その他
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NE D O)国際共同研究評価委員 (1990). チバ・ガイギー科学振興財団 選考委員 (1993-1996).
東京大学物性研究所 共同利用施設専門委員会委員 (1997-1998, 2001-2002). 東京大学物性研究所 物質設計評価施設運営委員会委員 (1998-1999).
B -10)外部獲得資金
特定領域研究(A ), 「分子性物質の電子相関と電子構造」, 薬師久弥 (1994年 -1996年). 特定領域研究(A ), 「π-d電子系分子導体の固体電子物性の研究」, 薬師久弥 (1997年-1997年). 基盤研究(B ), 「金属フタロシアニンを主とするπ-d電子系の研究」, 薬師久弥 (1997年-2000年).
特定領域研究(B ), 「π-dおよびπ電子系分子導体の磁性・電気伝導性の研究」, 薬師久弥 (1999年-2001年). 特別研究員奨励費 , 「分子性導体における電荷整列現象のラマン分光法による研究」, 薬師久弥 (2001年 -2002年). 基盤研究(B ), 「分子性導体における電荷整列現象の研究」, 薬師久弥 (2001年 -2003年).
特定領域研究 , 「分子導体における電荷の局在性と遍歴性の研究」, 薬師久弥 (2003年 -2007年).
奨励研究(A ), 「顕微赤外共鳴ラマン分光法による種々の分子配列様式をもつ有機伝導体の電荷状態観測」, 山本 薫 (2000 年 -2001年).
若手研究(B ), 「遠赤外反射スペクトルによる二次元電荷整列系の電子構造解」, 山本 薫 (2002年 -2003年).
若手研究(B ), 「伝導性電荷移動錯体の電荷秩序相における非調和分子振動と非線形光学効果」, 山本 薫 (2005年-2006 年).
C ) 研究活動の課題と展望
θ-型BEDT-TTF塩の電子相図における高温相はバンド幅の広い物質では金属的であるが,バンド幅の狭い物質では高い
伝導性を保ちつつも,金属と半導体の中間的な状態である。この状態は電気抵抗がほとんど温度に依存しない領域に現れ, 振動分光法で眺めると電荷がほとんど止まって見え,空間的に不均一な電荷密度分布をもつ状態に見える。NMR でもある 温度領域では不均一な数kHzという遅い電荷密度ゆらぎが観測されている。これらの不均一な構造はX線散漫散乱にも観 測されているが,金属からウィグナー格子に至る中間状態としての統一的理解はまだ得られていない。電荷密度のゆらぎは 屈折率のゆらぎを引き起こすので,光散乱法を用いてゆらぎの時間スケールを観測する実験を計画している。
電荷秩序状態と金属相との境界領域にある超伝導相では電荷ゆらぎを媒介とする新しい超伝導機構の理論が提案されて
いる。今年度実験を行ったβ”-(BEDT-TTF)4[(H3O)Ga(C2O4)3] C6H5NO2では小さな振幅の不均化しか観測できず,電荷秩 序相かどうかに曖昧さが残っている。もっと大きな振幅をもつβ-(DMBEDT-TTF)2PF6の研究に着手しているが,高圧下超伝 導転移前後の状態をラマン分光法で研究し,電荷秩序と超伝導の関係を明らかにすることを計画している。
電荷秩序相はその配列様式については良くわかってきたが,強誘電的性質についてはまだ始まったばかりである。本年度 はα-(BEDT-TTF)2I3の強誘電相において,1.4 µmを基本波とする強い第二高調波の発生を観測した。この第二高調波は 中赤外領域の電荷移動吸収帯に共鳴していることを明らかにした。このことは電子変位型という新しい型の強誘電相がで きていることを示唆している。実際,立ち上がり1 ps以下,回復時間 30 ps程度という高速の S HG 応答性が予備的に観測さ れており,電子の変位が強誘電相を引き起こす事をさらに裏付ける結果である。他の電荷秩序系へと物質を広げることと第 二高調波発生の機構を明らかにすること,また強誘電相の性質を電子・格子相互作用の観点からも明らかにしたいと考え ている。
最後に,走査型レーザー顕微鏡をもちいて,ビフェロセン-(F1T C NQ)3の共存相温度領域における分域構造の温度依存性 を観測し,相転移の機構を明らかにすることを計画している。
中 村 敏 和(助教授) (1998 年 6 月 1 日着任)
A -1)専門領域:物性物理学
A -2)研究課題:
a) 固体広幅 NMR および低温構造解析による T MT T F 系電荷秩序形成の起源解明 b) (T MT T F )2X の異常 g シフト:構造解析ならびに量子化学計算からのアプローチ c) (T MT T F )2X の局所電荷密度:放射光X線 ME M 解析
d) E S R によるヘキサベンゾコロネンナノチューブの電子物性研究 e) 光合成光化学系 II 反応中心の多周波 E S R 研究
f) パルスおよび高周波 E S R を用いたスピン科学研究の新しい展開
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 我々は一次元有機導体の電荷秩序状態とその起源を理解するために,おもに微視的な観点からT MT T F 系の電子状 態に関する研究を行ってきた。最近我々は,①種々のT MT T F 塩に対する重水素効果による電荷秩序転移温度の顕著 な上昇,②四面体アニオンを有する(T MT T F )2R eO4に対して常磁性相における電荷秩序転移およびアニオン配向秩 序化転移における電荷秩序の再配列の発見,③スピンパイエルス転移における電荷再秩序化の発見を報告した。 T MT T F 系では温度低下とともに一般に二量体が徐々に小さくなるが,電荷秩序相は有るしきい値をこえたところ が安定化するように見える。つまり,1/4占有バンドにおける電荷秩序形成と1/2占有バンドにおけるモット−ハバー ド絶縁相との競合で電子相が支配されるとも言える。四面体アニオン系のスピン一重項基底状態は,純電子的な電 荷秩序形成を凌駕するアニオンポテンシャルが,アニオン秩序化で形成し,電荷配列の再構築が起こるためと考え られる。これら一連の研究を通してT MT T F 系の電荷秩序形成(–o–O–o–O–)の主たる起源が長距離クーロン相互作 用によるものであり,系に寄らず普遍的なものであることを見いだした。
b) 上記のように一次元電子系(T MT T F )2X の電子状態については,かなり理解が進んできた。しかしながら,依然として 未解決な問題が存在する。たとえばいくつかのT MT T F 塩では,室温から20 K までの広い温度領域で異常なg値の振 る舞いが観測される。この問題を理解するために,単結晶E S R 測定およびX線結晶構造解析により分子構造と局所 スピン分布に関して考察を行った。PF6塩では,gテンソルの主値が300 K から20 K という広い温度領域で緩やかに シフトし,同時に,主軸がa軸を中心として回転する。この顕著なgテンソルの振る舞いの起源としては,まず分子・ 結晶構造の変化が容易に想像されるが,X線結晶構造解析からは,有意な分子構造変化は観測されない。そこで, T MT T F 分子に隣接しているカウンターアニオンの静電ポテンシャル効果について考察を行った。各温度でのX線 結晶構造解析から得られた原子座標を使用して,DF T -GIA O法に基づいたgテンソルの理論計算を行った。その結果, 実験から得られたgテンソルの主値,主軸の温度依存性を再現することができた。また,計算結果から T MT T F 分子
上のスピン密度分布を見積もったところ,T MT T F −アニオン間の距離が変化することにより,静電ポテンシャルが 変化を受け,4つの S 原子のうち,最もアニオンに近い S 原子上のスピン密度が増加することが分かった。この分子 内電荷分布の変化により,主軸の回転が生じたと考えられる。これは,T MT T F 系がとカウンターアニオンと近接し ておりかつドナー−アニオン間距離が顕著に変化していることに起因している。PF6のようなバルキーなカウンター
イオン塩では,カウンターイオンの静電ポテンシャルがドナーの波動関数に摂動をもたらし,異常gシフトが起こっ たと考えられる。
c) 前述したようにT MT T F 塩のうち比較的大きなカウンターイオンを持つ系では温度依存する異常なgシフトが観測 される。このような異常は有機・無機固体にかかわらず非常に珍しいもので,その起源としてフロンティア軌道の変 形が強く示唆されている。このような分子内自由度に着目した研究はほとんどなされて無いが,次世代の機能性物 質開拓の上で重要であると考えている。また,研究が進んでいる電荷秩序形成問題に関しても,純電子的な–o–O–o–
O–型の電荷秩序に関してはX線構造解析による観測はなされていない。そこで,(TMTTF)2Xの電荷分布状態を分子
内レベルで明らかにするために,室温並びに低温でのK E K -PF 放射光実験施設によるX線測定の結果から構造解析 を行い,マキシマムエントロピー法(ME M)による局所電荷分布解析を行っている。現在,より厳密な解析を行うた めにソフトウエア等の整備も行っている。
d)ヘキサベンゾコロネン(HB C )ナノチューブは,13個のベンゼン環が融合したグラフェン構造をもつHB C 分子に種々 の化学修飾を施した誘導体を基本ユニットとしている。その基本ユニットが溶液中での自己組織化によりナノメー トルサイズの直径をもつチューブ状ポリマーとして成長する。HB C ナノチューブでは,カーボンナノチューブとは 異なり,個々のHB C のグラフェン面がチューブの円周方向に沿ってらせん状に積層している。このためグラフェン 面がチューブの中心軸方向を向いているカーボンナノチューブとは基本的に異なるπ電子共役系を構成しており, 新規機能性ポリマーナノチューブ開拓の観点から興味深い。東大工・E R A T O-S OR S T の相田グループによりヨウ素 などの化学酸化によるキャリアドーピングを行い高い電気伝導性を示すHB C ナノチューブが開発された。我々は, このπ電子共役系をもつHB C ナノチューブの電子状態を,E S R やNMR といった磁気共鳴測定法を用いて調べてい る。中性でのHB C ナノチューブでは不純物に起因すると思われる極弱いE S R 信号が観測されるだけであるが,ヨウ 素をドープすると大きなE SR 信号が観測される。強度やE SR 線幅は時間とともに増加し,約一ヶ月で飽和する。これ らの結果から観測しているE S R 信号は,ヨウ素ドープによるキャリアに起因すると考えられる。飽和状態での無配 向試料に対するE SR 線幅は約8 Gaussとヘテロ原子を含まない系としては非常に広く,遍歴性を示唆している。実際 E S R 線幅は温度低下とともに減少しており,E lliot 機構つまり伝導電子のフォノンによる緩和が支配的と考えられ る。ただし E S R 信号強度から見積もったスピン磁化率の温度依存性は,室温ではフラットであるが低温では C urie- W eiss的に増大し,キャリアが低温では局在していることを意味している。C urie定数から見積もったキャリア濃度 は 8% 程度でかなりのドーピングが進んでいる。さらに,キャリアドープに伴うg 値や線幅の解析を行い,電子状態 の解析を行っている。
e) 酸素発生光合成は,光化学系I(PSI)および光化学系II(PSII)とよばれる直列にはたらく二つの光化学反応系(電子伝 達系)の協調により機能している。最近,酸素発生を担うPS II反応中心複合体の3次元構造が明らかにされたが,酸 素発生中心マンガンクラスターなど小分子の構造や分子配向の精確な決定には至っていない。我々は,シアノバク テリア由来PS II反応中心を対象に,常磁性分子種の電子・分子構造を選択的かつ微視的に明らかにするために多周 波 E S R による研究を行っている。PS II では 4 核の Mn クラスターを中心に電子伝達系が存在し,光酸化されたスペ シャルペアは Y z 分子より電子が供給され,その Y z 分子は水分子から引き抜いた電子を Mnクラスターから受け取 る。Mnクラスターは,水分解−酸素発生過程において異なった中間酸化状態をとる。各Mn原子の酸化の程度に応じ て S 0,S 1,S 2,S 3,S 4 と呼ばれる。S = 1/2の基底状態をとる S2状態は各 Mn核の核スピン I = 5/2との超微細相互結合 により特徴的なマルチラインを示す。このS 2状態の精確なgテンソルを決定するためW-bandでの測定を行った。さ らに,過渡的常磁性種であるY zラジカルに関する知見を得るために,光照射後およびアニール後での多周波E SR 測
定も行った。Y zラジカルの精確なgテンソルを決定するため,現在さらに単結晶試料を用いた測定が進行中である。 f) 分子研所有のパルスおよび高周波 E S R を用いて,高分解能E S R・高エネルギー特性を利用した複雑なスピン構造の
決定,多周波領域にわたるスピンダイナミクス計測といった種々な点から,スピン科学研究展開を行っている。これ までに高度に発展してきたE S R 分光手法を物質科学へ展開するために,①スピンをプローブとした分子構造・スピ ン間相互作用を決定し複雑分子系の機能性を探る,②分子集合体におけるスピンダイナミックス解析を行い,分子 内自由度に絡んだ協力現象の可能性,分子集合体ならではの新規物性機能発現を目指す。今後さらに,当該グループ だけでなく所外のE SR コミュニティーと連携を取り,パルス・高周波E SR の新たな可能性や研究展開を議論し,大学 共同利用機関である分子研からのスピン科学の情報発信を行っていく。
B -1) 学術論文
R. CHIBA, K. HIRAKI, T. TAKAHASHI, H. M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, “Extremely Slow Charge Fluctuations in the Metallic State of the Two-Dimensional Molecular Conductor θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4,” Phys. Rev. Lett. 93, 216405 (4pages) (2004).
K. MAEDA, T. HARA and T. NAKAMURA, “ESR Study on Low-Dimensional Antiferromagnet α-(BEDT-TTF)2PF6 and
ζ-(BEDT-TTF)2PF6(THF),” Synth. Met. 152, 453–456 (2005).
K. NOMURA, K. ISHIMURA, N. MATSUNAGA, T. NAKAMURA, T. TAKAHASHI and G. SAITO, “Non-Linear Transport in the Incommensurate SDW Phase of (TMTTF)2Br under Pressure,” Synth. Met. 153, 433–436 (2005).
S. FUJIYAMA, M. TAKIGAWA, J. KIKUCHI, K. KODAMA, T. NAKAMURA, E. FUJIWARA, H. FUJIWARA, H. CHUI and H. KOBAYASHI, “Nuclear Spin-Lattice Relaxation in κ-(BETS)2FeBr4,” Synth. Met. 154, 253–256 (2005). F. NAD, P. MONCEAU, T. NAKAMURA and K. FURUKAWA, “The Effect of Deuteration on the Transition into a Charge Ordered State of (TMTTF)2X Salts,” J. Phys.: Condens. Matter 17, L399–L406 (2005).
K. FURUKAWA, T. HARA and T. NAKAMURA, “Deuteration Effect and Possible Origin of the Charge-Ordering Transition of (TMTTF)2X,” J. Phys. Soc. Jpn. 74, 3288–3294 (2005).
B -4) 招待講演
T. NAKAMURA, “ESR Investigation of Charge Ordering Phenomena in (TMTTF)2X,” ASIA-PACIFIC EPR/ESR SYMPOSIUM 2004 (APES’04), Bangalore (India), November 2004.
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本物理学会 領域7世話人 (2000-2001). 日本物理学会 代議員 (2001-2003). 日本物理学会 名古屋支部委員 (2001- ).
日本化学会 実験化学講座編集委員会 委員 (2002- ). 電子スピンサイエンス学会 担当理事 (2004- ).
A sia-Pacific E PR /E S R S ociety S ecretary/T reasure (2004- ).
学会誌編集委員
電子スピンサイエンス学会編集委員 (2003). 電子スピンサイエンス学会編集委員長 (2004-2005).
B -10)外部獲得資金
特定領域研究 , 「分子導体における電荷の遍歴性と局在性の研究」, 代表者 薬師久弥(中村敏和は準代表者で実質独 立)(2003年 -2007年).
基盤研究(C )(2), 「一次元有機導体の逐次 S D W 転移における電子状態の解明」, 中村敏和 (2001年 -2003年).
特定領域研究(B ), 「NMR による遍歴−局在複合スピン系の微視的研究:新電子相の開拓」, 中村敏和 (1999年 -2001年). 特定領域研究( A ) ( 2) 集積型金属錯体 , 「dmit系金属錯体の微視的研究: 磁気構造と電荷局在状態」, 中村敏和 ( 1999 年).
奨励研究(A ), 「有機導体におけるF ermi 液体 -W igner結晶転移の可能性」, 中村敏和 (1998年 -1999年).
特定領域研究(A )(2) 集積型金属錯体 , 「微視的手法によるdmit系金属錯体競合電子相の研究」, 中村敏和 (1998年).
C ) 研究活動の課題と展望
本グループでは,分子性固体の電子状態(磁性,導電性)を主に微視的な手法(E S R ,NMR )により明らかにしている。研究 グループの所有機器としては3台の固体広幅NMR 分光器が稼働している。有機導体に対しての研究をもとに強相関低次 元電子系の未解決な問題の解明を行うとともに,新規な分子性物質の新しい電子相・新機能を探索している。また,分子ス ケールナノサイエンスセンター所有の,多周波(X -,Q-,W -bands)・パルスE SRを用いた他に類を見ないE SR 分光測定を行 い,分子性導体など種々の機能性物質に対して電子状態やスピン構造に関する研究を行っている。E SR 測定を中心に多数 の協力研究・共同研究を受け入れ,最先端のE SR 測定研究の展開を全世界に発信している。生体関連物質に対してもE SR という強力な手法も行えるようになった。さらに,学術創成研究を契機として放射光での分子内精密電荷分布解析も進行中 である。今後は高圧下・極低温下といった極端条件での測定システム構築を行うとともに,物質科学における磁気共鳴研究 のあらたな展開を行っていく。
分子集団動力学研究部門
小 林 速 男(教授) (1995 年 7 月 1 日着任)
A -1)専門領域:物性分子科学
A -2)研究課題:
a) 機能性分子性伝導体の開発と物性 b) 単一分子性金属の開発と物性
c) 分子集積体のナノ構造を利用した機能性分子物質の構築
A -3)研究活動の概略と主な成果
有機伝導体の研究は半世紀を超える長い歴史を持っている。新規な有機伝導体の開発は特に,四半世紀以前の有機 超伝導の発見以来急速に発展してきたが,単純な有機超伝導体の開発の時代は終わり,最近は分子物質の特性を生 かした機能性をもつ分子性伝導体の開発が求められる様になった。現在私達が取り組んでいる主な研究を以下に略 記する。
a) 磁性超伝導体の研究は物性物理分野の中心課題の一つとして注目を集めてきた。私達は有機伝導体に取り込まれた 局在磁気モーメントとπ金属電子の相互作用により出現する新規な磁気伝導物性を示す有機伝導体の研究を継続 している。これまでもλ-BETS2FeCl4やκ-BETS2FeBr4で局在磁気モーメントとπ金属電子の相互作用に基づく磁場 誘起超伝導や前例のない絶縁相−超伝導相−金属相スイッチング現象などの種々の磁気伝導物性を示す磁性有機 超伝導体や初めての反強磁性有機超伝導体などを報告してきた。最近,共同研究者によって磁場誘起超伝導体λ- BETS2FeCl4の高磁場中の抵抗の振る舞いが精密に調べられ,40年以前から理論的に予想されている超伝導のオー
ダーパラメーターが空間依存するF F L O状態となっていることを示すと考えられる特徴ある抵抗の磁場依存性が見 いだされている。また,我々は「超伝導→絶縁体転移」を示す合金系λ-BETS2Fe1–xGaxCl4が特定の狭いxの範囲で,磁 場下で超伝導が壊れるときに,金属状態と超伝導状態の中間で,磁場にも温度にも(殆ど)依存しないという,(恐ら く)前例のない抵抗状態を示すことを発見した。この振る舞いの再現性をチェックするために半年近く再測定を繰 り返した。また,λ-BETS2Fe1–xGaxCl4のT–x 相図を正確に決め,超伝導相,金属相,反強磁性絶縁相が交わる領域で特 異的な相図を示すことも判明した。
また,最近我々はスピンクロスオーバー転移や光誘起スピン転移トラッピング現象を示す新規な光・磁性・伝導多重 機能分子性伝導体の開発を進めている。最近スピン転移と電気抵抗の履歴現象がカップルした前例のない分子性伝 導体を見いだした。伝導性を向上させることにより,光照射により磁性や伝導性を制御できる磁性分子性伝導体の 開発の可能性が考えられる。一方,数年以前より試みている安定有機ラジカル部位を持つπドナー分子による伝導 体は様々な可能性を秘めた系であり,新たな目標に向けた合成研究を進めている。
b) 最近,初めての単一分子だけで出来た分子性金属結晶,Ni(tmdt)2の3次元金属のフェルミ面の形状を微小結晶を用 いた高磁場下の de Haas van A lphen( dHvA )振動の実験や,第一原理バンド計算などによって明らかした。また,Ni (tmdt)2結晶と同型構造を持つ A u(tmdt)2結晶の物性測定では,結晶の質が向上すると共に以前には判らなかった磁 気転移の詳細などが明らかになりつつある。110 K 近傍に常磁性−反強磁性転移が観測され,それは核磁気共鳴の実
験によっても確認された。このような「高温」で反強磁性(SDW )転移を示し,転移後も高伝導状態を保つ様な伝導体 は従来の分子性金属では例がないもので,興味深い。また,A u(tmdt)2結晶はナノサイズの厚みを持つ新しいタイプの 金属性ナノ結晶であることが判明し,そのキャラクタリゼ - ションを進めている。
c) 近年,ナノポーラス構造を持つ分子結晶を利用した機能性分子物質の開発が大きな注目を集めるようになった。私 達はナノポーラスフェリ磁性体 Mn3(HC OO)6および多くの類似物質の結晶を開発した。これまでにフェリ磁性体, 弱強磁性体,反強磁性体などが得られているが,最近,我々はこのような物質の誘電的な特性に注目し研究を開始し ている。最近極めて大きな誘電率を持つ化合物を見いだしつつある。
B -1)学術論文
H. B. CUI, S. OTSUBO, Y. OKANO and H. KOBAYASHI, “Structural and Physical Properties of λ-(BEST)2MCl4 (BEST
= Bis(ethylenediseleno)tetrathiafulvalene; M = Fe, Ga) and Analogous Magnetic Organic Conductor,” Chem. Lett. 254–255 (2005).
S. ISHIBASHI, H. TANAKA, M. KOHYAMA, M. TOKUMOTO, A. KOBAYASHI, H. KOBAYASHI and K. TERAKURA, “Ab Initio Electronic Structure Calculation for Single-Component Molecular Conductor Au(tmdt)2 (tmdt= Trimethylenetetrathiafulvalenedithiolate),” J. Phys. Soc. Jpn. 74, 843–846 (2005).
Z. WANG, B. ZHANG, M. KURMOO, H. FUJIWARA, T. OTSUKA and H. KOBAYASHI, “Synthesis and Characterization of a Porous Magnetic Diamond Framework, Co3(HCOO)6, and Its N2 Sorption Characteristic,” Inorg. Chem. 44, 1230–1237 (2005).
S. UJI, T. TERASHIMA, T. TERAI, S. YASUZUKA, M. TOKUMOTO, H. TANAKA, A. KOBAYASHI and H. KOBAYASHI, “Superconductivity and Vortex Phases in the Two-Dimensional Organic Conductor λ-(BETS)2FexGa1–xCl4 (x
= 0.45),” Phys. Rev. B 71, 104525 (7 pages) (2005).
B. ZHANG, Z. WANG, H. FUJIWARA, H. KOBAYASHI, M. KURMOO, K. INOUE, T. MORI, S. GAO, Y. ZHANG and D. ZHU, “Tetrathifulvalene [FeIII(C2O4)Cl2]:An Organic-Inorganic Hybrid Exhibiting Canted Antiferromagnetism,” Adv. Mater. 17, 1988–1991 (2005).
K. TAKAHASHI, H. CUI, H. KOBAYASHI, Y. EINAGA and O. SATAO, “The Light-Induced Excited Spin State Trapping Effect on Ni(dmit)2 Salt with an Fe(III) Spin-Crossover Cation: [Fe(qsal)2][Ni(dmit)2]CH3CN,” Chem. Lett. 1240–1241 (2005). H. CUI, K. TAKAHASHI, Y. OKANO, H. KOBAYASHI, Z. WANG and A. KOBAYASHI, “Dielectric Properties of Porous Molecular Crystals Containing Polar Molecules,” Angew. Chem. 117, 6666–6670 (2005).
S. S. STANILAND, W. FUJITA, Y. UMEZONO, K. AWAGA, S. J. CLARK, H. CUI, H. KOBAYASHI and N. ROBERTSON, “A Unique New Multiband Molecular Conductor: [BDTA][Ni(dmit)2]2,” Chem. Commun. 3203–3206 (2005). E. FUJIWARA, H. FIJIWARA, B. Z. NARYMBETOV, H. KOBAYASHI, M. NAKATA, H. TORII, A. KOBAYASHI, K. TAKIMIYA, T. OTSUBO and F. OGURA, “Molecular Conductors Based on peri-Ditellurium-Bridged Donors, 2,3- DMTTeA and TMTTeN,” Eur. J. Inorg. Chem. 3435–3449 (2005).
K. YAMAMOTO, E. FUJIWARA, A. KOBAYASHI, Y. FUJISHIRO, M. SAKATA, M. TAKATA, H. TANAKA, Y. OKANO and H. KOBAYASHI, “Single-Component Molecular Conductor [Zn(tmdt)2] and Related Zn Complexes,” Chem. Lett. 34, 1090–1091 (2005).
S. OTSUBO, K. TAKAHASHI, H. CUI, Y. OKANO and H. KOBAYASHI, “Organic Metals Based on Asymmetric π Donors PEDT-TSF, (PEDT-TSF)2FeX4 (PEDT-TSF = Pyrazinoethylenedithiotetraselenafulvalene; X = Cl, Br),” Chem. Lett. 34, 1598–1599 (2005).
B -2) 国際会議のプロシーディングス
T. KONOIKE, S. UJI, M. NISHIMURA, K. ENOMOTO, H. FUJIWARA, B. ZHANG and H. KOBAYASHI, “Magnetic Properties of Field-induced Superconductor, κ-(BETS)2FeBr4,” Physica B 359, 457–459 (2005).
M. TOKUMOTO, H. TANAKA, T. OTSUKA, H. KOBAYASHI and A. KOBAYASHI, “Observation of Spin-flop Transition in Antiferromagnetic Organic Molecular Conductors Using AFM Micro-cantilever,” Polyhedron 24, 2793–2795 (2005).
B -4) 招待講演
H. KOBAYASHI, “Design and Development of Molecular Systems with Novel Electronic Functions,” International Symposium on Frontier in Materials Design, Synthesis and Measurements, Awaji (Japan), March 2005.
H. KOBAYASHI, “Development and Physical Properties of New Magnetic Molecular Conductors,” International Symposium on Molecular Conductors, Hayama (Japan), July 2005.
H. KOBAYASHI, “Development and Physical Properties of New Magnetic Molecular Conductors,” Sixth International Symposium on Crystalline Organic Metals, Superconductors and Ferromagnets, Key West (U.S.A.), September 2005.
小林速男 , 「分子集積によって作られる金属結晶」, 広島大学プロジェクト研究センター 未来材料開発ポロジェクト研究 センター研究会 , 広島大学 , 2005 年 3 月 .
B -6) 受賞、表彰
日本化学会学術賞 (1997).
B -7) 学会及び社会的活動
文部科学省、学術振興会等の役員等 学術審議会専門委員 (1999-2000).
特別研究員等審査会専門委員 (1999-2000). 学会誌編集委員
日本化学会トピックス委員 (1970-1972). 日本化学雑誌編集委員 (1981-83). 日本結晶学会誌編集委員 (1984-86). 日本化学会欧文誌編集委員 (1997-1999). J. Mater. Chem., Advisory Editorial Board (1998- ).
科学研究費の研究代表者、班長等
特定領域(B )「分子スピン制御による新機能伝導体・磁性体の構築」領域代表者 (1999-2001).
科学技術振興事業団 戦略的創造研究推進事業「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」「新, 規な電子機能を持つ分子ナノ構造体の構築」研究代表者 (2002- ).
その他
日本化学会学術賞選考委員 (1995).
東大物性研究所物質評価施設運営委員 (1996-1997). 東大物性研究所協議会委員 (1998-1999).
東大物性研究所共同利用施設専門委員会委員 (1999-2000).
B -10)外部獲得資金
基盤研究(B ), 「高圧下のX線単結晶構造解析技術と有機結晶の高圧固体化学」, 小林速男 (1998年 -2000年).
特定領域研究(B )(磁性分子導体), 「分子スピン制御による新機能伝導体・磁性体に構築」, 小林速男 (2001年 -2003年). 戦略的創造研究推進事業(C R E S T ), 「新規な電子機能を持つ分子ナノ構造体の構築」, 小林速男 (2004年 - ).
C ) 研究活動の課題と展望
分子性伝導体の分野ではこれまでに膨大な知見が蓄積されている。最近分子性伝導体の研究は益々活発となっている。新 しい傾向としては,これまで蓄積された知見を,新規な分子デバイスの開発という観点に結びつけて新たな光を当てようと する研究が数多く見られるようになった。(光,磁場,電場などの)外力によって分子物質の状態を制御し,伝導性を大幅にコ ントロールすることができるような新規な伝導体の開発を目指す研究も活発となった。スピンクロスオーバー転移を利用して 新規な光−磁性−伝導,多重機能分子性伝導体の開発を目指そうとしている最近の私達の研究もその一例である。一方, 私達がこれまで10余年間調べてきた磁性有機超伝導体の研究は基礎的な研究であるが,現在でも未知の興味深い(磁気) 伝導物性を秘めているようである。また,最近長年の目標でもあった単一分子だけで出来た金属結晶が実現したが,同種 の単一分子性伝導体で,100 K を越える磁気転移を示す「分子性磁性金属」も見いだされた。この伝導体は有機π伝導層 と磁性アニオンから構成されている従来の磁性有機伝導体とは異なり,同一のπ電子系が磁性も伝導も同時に担っている と言う,新しい分子性の「金属磁性体」である。また,分子性金属結晶の分子設計条件を更に吟味すれば,私達が実現した ものとは異なるタイプの分子による単一分子性金属結晶を同様な考えに従って開発できることが判る。例えば,単一種の純 有機分子だけで金属結晶や超伝導体を同様な設計に従って作ることも可能であると考えている。分子性伝導体の研究は 分子物性研究の基本となる研究である。有機超伝導体の誕生から四半世紀を経て新しい発展の時が再び現れようとして いるのではないかと思われる。伝導体以外では,誘電特性に注目したポーラスナノ空間を利用した新しい分子性誘電性物 質の研究も興味深い発展を見せ初めており今後の展開が期待される。